ASD治療薬としてのメトホルミン

2025年04月05日

ASD治療薬としてのメトホルミン

目次

1.メトホルミンとは

2.メトホルミンの中枢神経系への作用

 3. メトホルミンとIGF1  

4.まとめ

 

1.メトホルミンとは? (メディマグ. 糖尿病 https://dm.medimag.jp/ -第3回 ビグアナイド薬(BG薬)より) 

・1918年、エール大学の C. K. ワタナベによりガレガソウ(フレンチライラック)の抽出物である「グアニジン」の血糖降下作用を報告。 (マメ科植物であるガレガソウは、多尿や口渇などの糖尿病症状を緩和する作用があることが知られていた。)  しかし、グアニジンそのものは毒性が強く、そのままでは薬として使用できなかった。

・1950年代から糖尿病の治療に使用。 60年以上の使用実績。 1950年代後半になると、グアニジン誘導体である「フェンホルミン」、「ブホルミン」、「メトホルミン」の3つのビグアナイド系薬剤が相次いで開発され、糖尿病治療薬の第一選択薬として広く使用されるが、メトホルミン以外の2剤では乳酸アシドーシスによる死亡例が多発し、使用が制限。1990年代から欧米で見直し、現在はインシュリン抵抗性糖尿病第1選択薬。   ・メトホルミンは日本でも糖尿病治療薬として広く使用。   

有効性があり価格も安い(1錠250mgの薬価は10円未満)

・治療効果+糖尿病予備群の糖尿病発症抑制

メトホルミンの血糖降下作用機作   (日経メディカル 医学大事典・糖尿病ネットワーク2020年10月16日 【第63回日本糖尿病学会】より)     メトホルミンはビグアナイド薬に分類され、その主な薬理作用機作は、  

・肝臓での糖新生抑制作用  

・インスリン抵抗性改善による筋肉・脂肪組織での糖取り込み促進作用  

・小腸での糖吸収抑制作用   など 複数の作用による血糖降下作用をあらわす。

 詳しい作用機序がわかってきたのは最近

AMPキナーゼ活性化  この酵素は肝臓におけるブドウ糖を合成する糖新生を促し、中性脂肪やコレステロールを合成する経路に関係して、生命活動に必要なエネルギーを作り出すATPを増加させる作用をもつ。肝臓のAMPキナーゼが活性化されると、脂肪がエネルギー源として燃焼されるのが促される。  

副作用  メトホルミンが乳酸を増加させるが、乳酸は肝臓で代謝されるため、通常はバランスが保たれている。しかし、乳酸代謝、肝障害、腎機能障害などがあると乳酸値のバランスが崩れ、乳酸アシドーシスが発現する危険性が高まる。日本ではメトホルミンの高齢者への投与は慎重を要するとされている。

メトホルミンの血糖降下以外の作用

・AMPKはすべての組織に関連しているため、メトホルミンは全身の代謝の不均衡を軽減する

・AMPK 活性化⇒がん、心血管疾患、肥満 神経変性疾患の予防

・T2D での使用に加えて、メトホルミンは多嚢胞性卵巣症候群 (PCOS) にも処方 ・英国で行われた大規模研究「UKPDS」では、メトホルミンは他の治療薬と比べ、2型糖尿病患者の動脈硬化を抑制し、心血管疾患の発症リスクを減少させることが確かめられた。 ・バルジライ教授らの研究チームが「メトホルミンによる加齢抑制」(TAME)研究は米国の15ヵ所の医療機関で実施。70~80歳の高齢者3,000人を対象に、メトホルミンを服用する群と服用しない群に分け調査(2015-2022)

米国立老化研究所の研究では、メトホルミンを投与したマウスはそうでないマウスに比べ、寿命が5%延びることが明らかになっている。メトホルミンを投与したマウスは摂取カロリーが減り、コレステロール値が下がり、腎臓病やがんの発症が減っていた。

AMPK活性化以外の作用

・がん細胞を除去するT細胞を活性化  

ウイルス感染した細胞やがん化した細胞など、生体に危害を与える細胞の殺傷・除去に関わっているキラーT細胞である「CD8」が、メトホルミンによって活性化・増殖

・ミトコンドリア由来の活性酸素を抑制  細胞が生存し活動するためのエネルギーとして「アデノシン3リン酸」(ATP)という体内物質が使われる。ATPは体が必要とする活動エネルギーを保存し、細胞では主にミトコンドリアという細胞内小器官で生成される。  糖尿病はさまざとまな代謝異常を引き起こすが、これにはミトコンドリアによる活性酸素が関わっている。高血糖により過剰に産生された活性酸素は、細胞を傷害し、がんや心血管疾患などさまざまな疾患をもたらす原因となる。

2.メトホルミンの中枢神経系への作用 (Guo, et al., Biomedicine & Pharmacotherapy 156 (2022) 113686 より)

図2 メトホルミンの中枢神経系への作用

 メトホルミンは、図2の様に様様な中枢神経系への作用があり、中でもAMPK活性化から「哺乳類のラパマイシン(免疫抑制剤)標的のたんぱく質(mTOR C1)」の抑制により、中枢神経の過剰な炎症を抑制し、保護作用を示す。

3.メトホルミンとIGF1

  前に紹介したASD治療薬候補となっているIGF1は mTORの亢進、細胞分裂を誘起する細胞外シグナル制御酵素(ERK)に働き、中枢神経細胞の成長を促進する。メトホルミンとIGF1はmTORに関しては逆の作用を示すことで、表1のようなASD関連疾患に改善効果を示す。

表1.ASD関連疾患と改善処置 (Guo, et al., Biomedicine & Pharmacotherapy 156 (2022) 113686 より)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

注:トロフィネチドはIGF1の活性部位を模して作製された薬剤

4.まとめ

ASDなどの神経発達異常の原因として、AKT-mTOR と RAS-ERK のシグナル経路の異常がある。

メトホルミンは、AMPK活性化などによりmTORシグナルの抑制から、抗炎症作用 神経新生作用、興奮性・抑制性神経のバランスの調整をする作用がある。

・IGF-1の作用とは経路は異なるが、ASDの症状について同様の改善効果がある。 ・メトホルミンの作用はIGF-1とともにASDの原因と症状改善のために今後とも 研究の発展が期待される (老化・運動・エピジェネティックな観点)

 

 

 

 

 

 

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