第2回 2022年2月26日

2022年04月10日

 遺伝子そのものではなく、DNAやそのまわりのいろいろな化学修飾によってその働きを制御する「エピジェネティクス」は日常生活において健康を考える上で有用な知識になっています。そういったことを題材に生物学研究者や医師に教育職や心理職など多様な職種の方々で開いた「健エピのつどい」の第2回目の公開版をお送りします。

〇ドーパミン、オキシトシンのエピジェネティクス

 今回は、今話題になっている脳内ホルモン(物質)、ドーパミンとオキシトシンについてエピジェネティクスがどのように働いているかを堀谷が紹介しました。

達成感、快感、喜び、感動のホルモン、ドーパミンは図1のようにドーパミンを出す細胞とそれを受け取るドーパミン受容体、さらには余っているドーパミンを再吸収させるドーパミントランスポーターという3者がドーパミンの量を制御していて、このうちドーパミントランスポーターはエピジェネティック制御の異常で(この場合はDNAのメチル化という化学修飾が正常より少なくなっている)働きすぎることで受容体が受け取る量が減り、鬱(うつ)ADHD(attention deficit/hyperactivity disorder注意欠如・多動性障害)の原因になることが知られています。ちなみになぜこのように再吸収するトランスポーターが必要かというと、ドーパミンは極少量で瞬間的に働くので、長く余分なドーパミンが受容体付近に留まっていないようにしなければならないからだと考えられます。

 

図1 ドーパミンの作用制御のしくみ

 遺伝的に神経細胞に異常があるマウスを人の思春期に当たる時期に仲間から離して飼育していると、ドーパミンを作る細胞に異常が出て成熟してから鬱状態になってしまうが、集団で飼育させたものではそのようなことは見られなかったことが報告されています(『Science(サイエンス)』電子版 2013 年 1 月 18 日号より)。

図2 思春期の環境が成熟期のうつの引き金になる

このときの原因もやはりエピジェネティクスで今度はドーパミンの産生にかかわる遺伝子のDNAメチル化多くなることでドーパミンの産生を抑制していました。すなわち、遺伝的にストレスに弱い人は、思春期の時期の孤立などの精神的ストレスが、成人になってからのうつ病の原因になるという可能性を示しています。

 

3.幼児期のマルトリートメントがオキシトシンの働きを抑える

マルトリートメント(不適切な養育)は子どもが親から殴る、蹴るといった身体的虐待や性的虐待など直接的な虐待だけでなく、不適切な養育環境、暴言、家庭内暴力の目撃などを含むより広い概念をいいます。マルトリートメントを経験した子ども(マルトリ児)は生命の危機に至らなくても、「うつ病」を始めとする重い精神症状を患うことが多く、その原因の一つはやはりエピジェネティクスです。オキシトシンは幸福感を与える社交性を高める不安や恐怖心を和らげるホルモンであり、図3のようにマルトリ児は非マルトリ児に比べ、オキシトシンの受容体においてDNAのメチル化が多くなっており、また、恐怖や不安を感じる部分の容積が大きくなっていました。

 

図3 オキシトシン受容体のDNAメチル化率と左前頭眼窩皮質灰白質容積の関連性(AMEDAプレスリリース令和3年11月18日より)


この発表の後以下のようなやり取りがありました。

(解説1)1.についてドーパミントランスポーターの働きを抑える薬は結果的に脳神経にはたらくドーパミンの量を増やすことになり、ADHDの治療薬となっている。

(質問1)2.について野生型のマウスでは隔離しても何の影響も出ないのか?

(コメント1)野生型には影響のない期間として3週間をとっているが、もう少し長い期間ではどうなるかはわからない。

(解説2)遺伝的要因と環境からのエピジェネティックな要因の2つが相まってうつなどの発病につながると考えられる。

 

第2部 子どもの事例検討

ある小学校の特別支援学級の自閉症(ASD)診断を受けているが療育手帳は持っていない男児の事例が紹介されました。授業では数分ほどしか席についていられず、学習意欲もあまりない。プラバン作りが好きでやらせるといつまでもやっている。この学級のほかの児童からは授業をうけなくてもいいので「○○ちゃんずるい」と思われている。クラスの担任の先生は、特別支援学校への転校をした方がよいと思っているが親御さんは、兄弟がやはり特別支援学級で問題なくやれているので、転校はさせたくないとのこと。

(意見1)自閉症のお子さん自身は学校に通うこと自体にストレスを感じていると思う。

 やはりプラバンならプラバンで好きなことをさせて、自由にしてやることがよいと思う。

(質問1)学校の方で特別支援学校への転校のはたらきかけはしているのか?

(回答1)教育委員会に問い合わせているが、やはり親の意向が尊重されるので対応は難しい。

(意見2)大変むつかしい問題であるが、現場だけで解決できることではなく、こういった問題に取り組んでいる専門家などとも相談し、親御さんの理解を得るようにしながら教育委員会などを動かしていくことが必要かもしれない。

 

 

次回3月の教養講座は、「ドーパミンとオキシトシン」の続きです

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