第5回 皮膚感覚とエピジェネティクス

2022年06月08日

 遺伝子そのものではなく、DNAやそのまわりのいろいろな化学修飾によってその働きを制御する「エピジェネティクス」は日常生活において健康を考える上で有用な知識になっています。そういったことを題材に毒性研究者や医師や教育職および福祉など多様な職種の方々で開いた「健エピのつどい」の第5回目の公開版をお送りします。

〇皮膚感覚とエピジェネティクス

 今回は、第3回でも取り上げたオキシトシンがスキンシップで分泌されることを少し詳しくご紹介して、エピジェネティクスとの関連についてお話しししました。

1.皮膚の構造

図1 看護Roo!https://www.kango-roo.com/learning/2412/より

皮膚の構造は図1のように非常に複雑で、痛覚、触・圧覚、温覚、冷覚といった感覚を脳まで伝える感覚神経が張り巡らされています。これらはそれぞれ種類の異なる神経線維からできおり、痛覚、触・圧覚、温覚、冷覚それぞれの信号を脊髄を経て脳へと伝えます。

これらの神経線維のうち、C繊維とよばれるものがあり、A,B繊維とは違って無髄で、原始的な構造(図2)ですが、脳の島皮質という感情にかかわるところにつながっており、そこからさらに脳下垂体視床下部のオキシトシンなどの分泌細胞にも届いています。

図2 C繊維とA,B繊維

 

2.オキシトシンの分泌とエピジェネティクス

オキシトシンは、神経細胞から分泌されるのですがその詳しいメカニズムはまだよくわかっていないようです。エピジェネティクスとの関連は脳のオキシトシンの受容体(オキシトシンを取り込んで色々な作用を発揮する信号を出すところ)で幼児期にマルトリート メント(虐待や愛情不足など劣悪な扱いを受けること)された場合に働きが悪くなるなどのことが知られています。分泌ではその仕組みは解明されていないものの関りがあると考えられます。

3.皮膚感覚とオキシトシン(山口創 皮膚感覚と脳 2017より)

 皮膚感覚は脳の働きと密接に関連しており、摂食障害の人にボディスーツを着せてやると摂食が改善すること、また発達障害や認知症などの人は皮膚感覚に問題があることが知られています。 

また、触れ合い(タッチセラピー)により、うつや不安の症状が軽くなり、定期的に施術して自閉症にも効果のあることが分かってきました。

その理由の一つは、皮膚刺激により内因性のオキシトシンの分泌が促進されることだと考えられます。外からオキシトシンを薬物として与えた場合には効果が持続しない(内因性のオキシトシン分泌が悪くなることなどからだと考えられます)などの問題がありますが、内因性のオキシトシンの分泌を高めることではそのようなことはなく長期的により良い効果が期待できます。

さらに驚くべきことにタッチセラピーをすることで、受け手のオキシトシン分泌が高まるばかりでなく、施術者のオキシトシン分泌が高まることが分かってきました。

5)山口創,秋吉美千代.タッチングによる 施術者への生理・心理的効果:オキシト シンによる検討.日本健康心理学会第 28 回大会発表論文集.

質問1.視覚などがあるのに皮膚感覚がこれほど鋭敏に発達しているのはなぜか?

答え: もともと生物に光受容器はなく皮膚感覚で外界の状況を把握していたのではないか?たまたま、光受容器を手に入れた生物が視覚を発達させたと思う。面白いことに視覚障害者は点字などで皮膚感覚を刺激することで脳内の視覚野が活性化されるらしい。

質問2.触れ合いという行為は人以外では、猿の「毛づくろい」など霊長類くらいの動物でしかないのではないか?それがもっとも原始的な神経C繊維を通じて伝達されるのは?

答え:もしかしたら、もともとオキシトシンは性ホルモンなので、交尾行動などの接触感覚から発達してきたかもしれない。

コメント1.末期がんで全身に痛みを抱えた母親に気功の施術法を習ってやってあげたら痛み軽減の大変良いヒーリング効果があった。また、やってあげて自分も気分がよくなるという経験をした。今回の話でそのことが腑に落ちた。

質問3.施設で自閉症の方にタッチセラピーなどを考えてもよいのではないか?

答え:中にはそれほど嫌がらない人もいるが基本的に自閉症の方は人に触られるのを嫌うのでむつかしい。

質問4. 自閉症の方はまず警戒心や恐怖心が先にたってなかなかタッチすることに抵抗が有るかもしれないが、親御さんなど身近な人が少しずつ触れ合うようにしていくことができるのではないか?また、できればお互いに相手に触ってあげるようなことができないか?

答え そういうことができるひともいると思うがやはり現状ではむつかしいと思う。

コメント2:登校児や障害者を預かる活動も計画しているが、今回のように皮膚刺激を生かしてよいケアができるように考えていきたい。

以上

次回は、鍼灸などとエピジェネティクスについて取り上げる予定です。

    

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