第3回 大学のゼミだより「障害児の卒業後の進路」

2020年12月02日

今、教鞭をとっている大学のゼミから皆様に知っていただきたいことがありました。

大学にはゼミという科目があります。卒業論文を書くための大学3年から4年にかけての2年間にわたる科目です。これは大勢が一斉に受ける授業と違い、少人数ごとに別れて特定の教員の下で興味あるテーマを学ぶというものです。今勤めている大学では、教員が自分の研究テーマを示し、そのリストから2年次の学生が希望を書き、マッチングして決めるというやり方をしています。幸いなことに私のテーマ「発達障害の科学的理解」は文系大学でありながら希望する学生がいてくれて、3年次のゼミ生は11名います。毎週水曜日の夕方に行っているのですが、今はオンラインで必要な文書を共有しながら進めています。最近は障害に関わる動画投稿サイト(YouTubeなど)をみんなで共有しながら行ったりしたりもしています。

そのような中、先週水曜日のゼミで「障害児の卒業後の進路」を卒論テーマに選んだ学生が、障害者を積極的に雇用している企業を紹介してくれました。 その企業は北海道にある黒板のチョークを作っており、世界シェアが7割ということでした。2つの良いことをしていることがわかりました。

1つ目は環境への配慮です。廃棄されたホタテ貝の殻を回収してその成分をチョークに混ぜていました。これにより滑らかな書き心地と粉に適度な重さが加わり飛び散らないという利点があるとのことでした。

2つ目は障害者雇用です。従業員のうち7割が障害者とのことでした。重い障害者もいます。障害者雇用を始めたのは60年前の1960年だったと言います。そのきっかけは、「障害者の幸せは親切にされることではなく、自分が社会に貢献できている実感である」というお坊さんの言葉であったそうです。この会社のやり方は、障害者に業務を覚えるように訓練はしません。その代わり、雇用した障害者ができることを探し、その範囲でやらせます。従業員は数名のグループに所属し、お互いに持ち味を出しながら結果を出しているとのことでした。これで60年間、障害者雇用が続けられてこられた謎が解けました。

この企業が教えてくれたことは、「障害者に健常者に近づける努力をさせない」という今時の考え方の基本です。これが近年様々な場面で使われ始めた「合理的配慮」だと思いました。この企業はすべての従業員それぞれに「合理的配慮」を行って、その結果、世界シェア7割を達成していることを政治家の方や企業の社長さんたちを筆頭に、全国民に知ってもらいたいと思いました。

そして、日本中の第一次・第二次産業のすべての企業が、多かれ少なかれこの北海道の企業の考え方で会社経営をしていただけたらと強く思いました。その結果は、福祉の先進国である欧米にも胸を張れる共生社会の確立につながるからです。そして、これをお読みいただいている障害傾向のお子様をお持ちで将来の就職を心配されておられる親御さんにおかれまして、ぜひこの方向性での企業の変革を国の行政に要望していただけましたら幸いです。

2020.12.2

第3回 大学のゼミだより「障害児の卒業後の進路」」 に2件のコメント

  1. 島津 利一 より:

    私はそのチョークを毎日使っています。箱に手を入れてチョークを取り出すたびに、この会社の動画を思い出します。私は教員ですが、以前から発達障害の原因を追究しています。最初エピジェネテックスは、木村-黒田純子博士ご夫妻の本で初めて知りました。自分には未知の世界でしたが、それから色々な文献を渉猟する内に、その発達の歴史やここ10年の論文数の急激な増加も理解できるようにはなりました。しかし、学問的な分子生物学の基礎知識のないことは否めません。ここでは平易に教えて頂けるので本当に助かります。私の周りには発達障害とそのグレーゾーンの生徒たちが爆発的に増加していることを認識している教員は多いのですが、日々の対応に追われ、その原因を追究することやエピゲノムについて語る人は皆無です。ある農薬ムラの権威が「最近エピジェネテックスなどといういかがわしいことを振りかざして、農薬使用にケチをつけているのには気を付けなくてはならない」と発言していました。私はそれを聞いた途端、相対論の創始者アインシュタインが、量子力学を理解できなくて、学問上の論争を巻き起こしたことを思い出しました。最終的に、エンタングルメントは解明されてノーベル賞を受賞しました。この論争は、「理論的論争」であって、意見の違う科学者の人間性を冒涜したものではなかったと思います。しかし、モンサントペーパーで明らかになったように、敵対する意見の学者を陥れようとするメカニズムが働きます。これは科学的進歩にはなりません。農薬ムラの学者たちは、エピジェネテックスを使って論理的に反論すべきなのです。そういう論文があったらご紹介ください。

    • 堀谷 幸治 より:

      コメントご投稿ありがとうございます。返信が遅くなって申し訳ありません。ご指摘のように農薬ムラの学者は、農薬の危険性の指摘には、これまでのガイドラインを金科玉条
      に問題はないということで済まそうとしていますね。エピジェネティックな観点からの反論文献はわたしも知りません。この会の代表代行の澁谷徹と堀谷はこれまでに危険性が指摘されている農薬を含めた内分泌かく乱化学物質(EDCs)の「エピジェネティック毒性」を日本毒性学会を始めとした学会での発表や講演をしてきました。しかしながら、エピジェネティクスの土俵で安全性を論議できるだけの環境はまだ整っていないようです。だからこそ、今、エピジェネティクス毒性からのガイドラインの見直しなどは喫緊の課題として訴えていく所存です。発達障害の原因は関連遺伝子が1,000のオーダーといわれており、いろいろな環境要因が複雑に絡んでいるので、当面はできるだけ安全側にシフトしたリスク・ベネフィットの論議で対応することになると思います。付け加えますと健エピネットの研究会では、ニューロダイバシティ(発達障害を一つの個性としてとらえ共感とリスペクトを持って対応する考え方)からの発達障害児支援の活動をしていきたいと考えています。ぜひ、またいろいろと交流させていただけましたら幸いです。

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