第8回 睡眠その5 冬眠

2021年03月08日

 睡眠テーマの最後に冬眠をとりあげます。 一般的には冬眠は睡眠が日周期の枠から離れて長期化したようなイメージですが、実は睡眠とは全く別のものらしいです。睡眠とは脳の活動休止状態ですが、冬眠は体の活動休止状態であって、「覚醒状態での冬眠」もあり得ることになります。冬眠動物の中には、睡眠をとるために中途で冬眠から脱するものもあるということです。ただし、睡眠状態かどうかは脳波の測定によって判断していますが、体温の低下により、脳波の測定が不可能になり、冬眠中にどれくらい「睡眠」が起きているのかは未解決のままです。(森田哲郎、1995)。

 

冬眠の特徴は1.体温の低下 2.代謝の抑制です。この二つが関連はしますが、どちらかが原因で、他方がその結果であるのか、あるいは独立した機構が存在しているのか十分な結論は得られていません。通常の動物では体温の低下により心筋細胞や各組織の細胞が障害を受けるのですが、冬眠時には細胞膜にリノール酸など不飽和脂肪酸が蓄積し,Caイオンチャネルの調節などで保護しているようです(森田哲郎、1995)。

 

また、冬眠により、動物の寿命が延長されるということも確かなようですが、それは冬眠期間以上に延長されるかどうかはよくわかっていません。寿命の伸びる原因としては代謝抑制により、活性酸素などによる細胞へのダメージの減少、細胞の増殖その他が抑えられ、がんなどの発生も少なくなり結果寿命が伸びるといったことが考えられています。

 

最近、通常は冬眠しないラットやマウスにおいて、視床下部付近存在するQ神経叢を刺激することで、冬眠状態と似たような体温低下と代謝抑制が誘導されたという報告がありました(砂川、2020)。もしかすると冬眠はエピジェネティックな支配を受けており、それを操作することでヒトでも冬眠状態を誘導できるかも知れません。昔から、SFなどででてくる「不治の病気になった人がいったん冬眠状態となって、高度な医療技術が開発されたときに冬眠から脱して治療を受ける」といったようなことが現実のものになってきているようです。

 最近、人も冬眠をしていたというニュースが報じられています(https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2021/01/post-95313.php)。火力の利用などから、人類は冬眠が不要あるいは不利になってきたためにいつの間にか冬眠のできない体になっていったのかもしれません。もし、冬眠をもう一度手にすることができるなら・・。改めて皆さんも冬眠の有意義な利用法などを考えてみてはいかがでしょうか。

左:通常のラット下のサーモグラフィーでは30℃以上の各部体温を示す。

右:Q神経刺激のラットサーモグラフィーでは25℃以下の各部体温(筑波大学提供)  2021.3.9

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