第10回「ゲノムインプリンティング(GI)はオスとメスとのせめぎ合いである」

2021年05月20日

ゲノムインプリンティングGI) の進化を考えると、GIは哺乳類になって初めて出現したもので、これには「胎盤」の形成と大きくかかわりあっているという。GIがみられるのは、哺乳類では真獣類と有袋類に限られており、胎盤や胚乳を介して、母体から栄養をとる生物においてGIが進化したように思われる。

 

GIに関しては、父由来と母由来の遺伝子の間でそのコピーを少しでも高い確率で残すため、母体からの栄養を巡る対立があるという仮説が提唱されている(コンフリクト説:綱引き説)。すなわち父由来遺伝子は、胚が母体からの栄養を少しでも多く獲得することを要求し、母方遺伝子は特定の胚への過度な栄養供給を避け、多くの胚に分散して栄養を供給しすることで、そのコピーを多く残ことを意図することになる。

 

のために、胚の成長を促進するIGF2遺伝子のような成長促進性の遺伝子では父方の遺伝子が発現し、CDKNIC1遺伝子のような増殖抑制型遺伝子は母方遺伝子が発現することになる。ただしこすべてのGI遺伝子がこのようにして働いているのではないようである。簡単に言えば、父方の遺伝子は胎児の発達を促進させるべく働くが、母方の遺伝子はそれを阻害する胎盤の発達を促すように働く。そのために、哺乳類はGIという仕組みを発達させてきたようである。

 

私たちも平穏無事にこの世に生まれてきているように思われるが、その誕生までには、このような父方と母方の遺伝子間での、大きな綱引きが行われてきていることは大変興味深いことである。

 

 男と女の平等が叫ばれてきているが、生物学的には男と女の役割ははっきりと分かれているのだ。男は逆立ちしてもその子供を産むこことなどできるわけはない。そのことをよく理解しないで、ただ「男女平等」だけを叫ぶのはおかしいと思う。ヒトも所詮は生物の一員であり、その枠を逸脱することは出来ないと思う。次回はGIと胎盤との関係を述べてみたい。

この章は 鵜木元香・佐々木裕之著「もっとよくわかるかるエピジェネティクス

(羊土社・2020)を参考にいたしました。

    2021.5.20

第10回「ゲノムインプリンティング(GI)はオスとメスとのせめぎ合いである」」 に2件のコメント

  1. HJ より:

    遺伝子について色々学んでいる時にこちらのページを知りました。
    これまで、一卵性双生児の方の1人は健康でも、もう1人は癌になったりして、同じ遺伝子なのに?という時に遺伝子のオンオフが関係してると聞いてました。
    しかし、最近の研究で一卵性双生児でも遺伝子の情報が若干違うらしいと聞きました。今までの一卵性双生児での研究はどうなるのでしょうか?

    • 澁谷 徹 より:

      一卵性双生児は発生の初期に1個の受精卵が二つに分割して、それぞれが別個に発生して生まれてきたものです。ですから、それらは全く同じ遺伝子を持っているものと考えられます。

      しかし、それぞれの個体は何回もの細胞分裂を経過して個体として発生しますので、すべての細胞を分析すれば、体細胞分裂によって突然変異を起こしている可能性があります。

      また、それらが同一の子宮に着床しても、それらの環境は微妙に異なりますので、エピジェネティクスの面でも遺伝子発現が異なっている可能性は十分にあります。

HJ へ返信する コメントをキャンセル

承認させていただいたコメントのみを数日以内に掲載します。

CAPTCHA