第6回 「男と女:その1」

2021年01月20日

 哺乳類では、メスが原型(プロトタイプ)であり、発生の初期段階で、Sry遺伝子(エスアールワイ遺伝子:Y染色体性決定部位遺伝子)をもっていれば、その個体はメスとして発生している途中からオスに改変されることになる。Sry遺伝子遺伝子は通常Y染色体上にあり、核型でいえば、44 +XXがメスになり、44+XYがオスとなる。勿論、母親は44+XXであり、父親は44+XYだから、子供の性比は1:1となる。Sry遺伝子の発見には壮烈な競争があり、私が大学で遺伝学を習った当時は、大野 乾(すすむ)先生のH-Y遺伝子説が有力であったが、現在ではSry遺伝子が性決定遺伝子とされている。また、メスが2本のX染色体を持ち、オスは1本しか持たないので、メスでは「X染色体の不活性化」という大変重要な現象が知られているが、これは次の稿で解説したい。

 Sry遺伝子があると、メス型の体形がオス型への変化を開始するが、この遺伝子はオス型への単なるスウィッチに過ぎない。しかし、オキナワナキウサギなどは、オスでもY染色体を持っておらず、常染色体の上にSry遺伝子の働きをする遺伝子があり、正常なオス、メスが生まれてくるY染色体は相同染色体がないので、減数分裂ではX線染色体と組み換えをし、そのたびに短くなり、いずれなくなることを主張した研究者もいたが、どうやらそれは杞憂であるとのことである(松田洋一:性の進化史)。

 ちなみにY染色体の最初の発見は、昆虫の精巣の連続切片を観察するという

大変な苦労をして発見されたもので、津田梅子が滞在したこともあるアメリカの女子大の小さな研究室だったという(福岡伸一:できそこないの男たち)。

 Sry遺伝子の機能は、まさにエピジェネティクスの原点そのものだといえる。ちなみに、生殖細胞の発生、分化過程では、まさにエピジェネティクスな現象が連続して起きている。

 一つの遺伝子で、オスとメスとが決定されるのは、まず生殖細胞の系列であるが、それに伴って他の細胞系列も性決定が行われる。たとえば脳にもオス型とメス型(性的二形)があり、これらが生殖細胞と一致しないと「性同一性障害症候群」となる。この問題は、一時期「環境ホルモン問題」でクローズアップされましたが、今では下火となっている。これは生物学的には当然ありうることであり、社会的にも大きな問題である。その変異は連続性(スペクトラム)となり、様々に分散する。遺伝子はある無し(all or none) で作用するが、エピジェティクスでは、1から0までの範囲を変動し、多様性を示すことになる。

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