第1回 健エピネットイベント 報告
2020年11月16日
健エピネット「障害のある子の将来を考える集い」を開催して
久保田健夫 記
健エピネット開設からおよそ1ヶ月となる昨日、このネット顧問の林和彦先生が施設長をされておられる障害者施設において、第1回イベントとなる講演会を行わせていただきました。この施設に通われているお子さんをお持ちの保護者の方々に多数お越しいただき、エピジェネティクスと発達障害に関する講演をさせていただきました。
講演会の内容は「エピジェネティクスとは何か、エピジェネティクスからみた発達障害の理解、遺伝子のエピジェネティックな可逆性を踏まえた療育」の3つでした。講演後、お聞きいただいた保護者の方々から「自分の子どもは成人になっているが、まだエピジェネティックな可逆性があるのか、まだ良くなる可能性があるのか」といったご質問をたくさんいただきました。
講演会後、健エピネットのスタッフ4人で食事をしました。その席でいろいろな話が出たのですが、一番印象的だったのが「エピジェネティックな作用を持つ薬を使って遺伝子の働きを元に戻す治療が研究されてきたが、これからは薬ばかりでなく良い環境で治療する発想が大切ではないか」という提案でした。
実際、「良い環境の中で育てると脳の中の遺伝子の働きが改善すること」が動物実験で示されてきました。ヒトの子どもでもそうであるかどうかを証明していくのはこれからです。
一口に「良い子育て環境」と言っても、おそらくお子さん一人ひとり、違ってくるのではないかと思います。
このHPを読んでくださっておられる皆様からぜひご意見いただきながら、この研究を進めていけたらと思っています。これからもどうぞよろしくお願いいたします。
第1回 健エピネットイベント 報告
堀谷幸治 記
10月31日(土曜日)に埼玉県の障害者施設「ひかり福祉会みどり園」、健エピネットのイベントとして第1回となる講演会「障害のある子の将来を考える集い」を開催しました。
オンラインではなく対面で施設の中で人と人の距離を十分にとっての開催でした。このような中、施設ご利用の障害者21人中17組の保護者の方に参加して頂きました。
前半は健エピネットの林 和彦顧問が講演し、その内容は「障害のある子の親なきあとを考える」というタイトルの下、親が亡くなった後の障害者の生活費や住居、日常の世話に関する課題を公助、共助、自助の観点から説明するものでした。
後半は健エピネットの久保田健夫代表が講演し、その内容はエピジェネティクスとは何か、エピジェネティクスと発達障害の関係、エピジェネティクスの原理を踏まえた療育や子育てに関するものでした。 具体的には、エピジェネティクスに異常が生ずる原因としての胎児期や幼少期の栄養やストレスなど考えられること、これによって遺伝子スイッチのON/OFFに乱れが生ずること、スイッチの乱れは薬物だけでなく良好な環境を整えることで戻すことができる可能性があるということについてでした。
講演後、会場の保護者の方からの質問を受け、「1)自閉症などの原因の一つに予防接種時の有害物質(水銀)の摂取があるのではないか、またそれを取り除くキレート剤などはどうか」との質問に対しては「自閉症の原因はいくつもあるが、水銀といった化学物質もその1つと考えられる。実際、血漿交換の手法を使ってこれを取り除く治療をしている病院もある」との回答が、「2)エピジェネティクスをこうした障害の治療として助成していく動きは厚労省にあるか」との質問に対しては「厚労省から独立したAMEDという官庁からにエピジェネティクス研究に対する助成がされている」との回答が、「3)24歳という青年期でもエピジェネティクス治療の効果を期待できるか」との質問に対しては「遺伝子スイッチの可逆性をふまえ、悪くしないようにすること、さらに良くしていくことは可能だと思われる」との回答がなされました。
また、質問者の中には障害児であることを受け止められずに何とか直したいとばかり考えていたが、障害を一つの個性として受け入れていくようになってきたというお話をされる方もいて、大変感銘を受ける講演会となりました。
第1回健エピネットイベント
みどり園 「障害のある子の将来を考える集い」に参加して
澁谷 徹 記
健エピネット顧問でみどり園の代表をされている林和彦さんが主催された「第1回障害のある子の将来を考える集い」に参加しました。林さんと私は高校以来の旧友で、今回の講演会の前にこの施設を訪問し、多くの障害をもつ方々と直接お会いしたことがありました。はじめはその挙動などに驚かされましたが、一緒に長く過ごしていると、それぞれの方には個性があり、その行動パターンはそれぞれであることを認識しました。
今回の講演会には、利用されている障害者の保護者のほとんどの方が参加しており、講演後のご質問や意見から、障害を持つ我が子のことを前向きにとらえておられることがひしひしと感じられました。私はこれまで障害の方をお持ちの方の親御さんは、さぞ大変だろうという意識だけしか持っていませんでした。しかし、長年一緒に苦楽を共にされる我が子には一層の愛着が湧いてくるようでした。
講演会は2部構成で、第1部は林さんが「障害のある子の親なきあとを考える」と題して親亡き後の障害者の生活や支援などについて分かりやすく解説をされました。障害のある子を持つ親御さんにとって、亡くなられた後の子供さんの生活の保障は大変な問題(いわゆる50/80問題)だと思います。障害を持つ子らが親亡き後も安寧に生活できるためには、国や自治体の手厚い援助が今以上に必要であることを痛感しました。
第2部では、当ネットの久保田健夫代表が「発達障害とエピジェネティクス」と題して講演をされました。私には親御さんたちは、わが子の発達障害などが「エピジェネティクス」を活用して少しでも改善出来るなら、それをすんなりと受け入れられるものと考えていました。しかし、親御さん達の反応は、それ程単純なものではありませんでした。つまりその障害をそのまま受け入れておられるようなところがおありのようでした。以前林さんから「障害を持った親の方が子への愛情はより深くなる」ということをお聞きしましたが、今回その言葉がそのことが納得できました。参加者の多くの方々は、「エピジェネティクス」という新しい知識やその活用についもて冷静に考えておられ、いささか拍子抜けの感もありました。しかし、久保田先生からの、子供さんたちの養育環境が重要であるとの結論に納得された親御さんが多かったように感じました。
私はこれまでは障害者には単に憐憫を感じていたのに過ぎなく、障害者を正しく理解していないことを痛感しました。また一般の人と障害者とは明確に区別があるのではなく、幅広い多様性を持ったスペクトラムとして捉えることが重要であることを実感させられました。今回の障害者施設での講演会に障害者の親御さんたちとともに参加して、大変貴重な体験をさせていただきましたことに心から感謝しております。
久保田先生のご講演とみどり園の課題
林 和彦 記
(1)10月31日(土)のみどり園における久保田先生のご講演「エピジェネティクスと発達障害」は、今後のみどり園の活動のエポックになると思われます。
先生は、まず「エピジェネティクス」とは「遺伝子のスイッチ」であり、「スイッチが切り替わる仕組み」のことであると平易な言葉で述べられました。そして「遺伝子のスイッチは環境で変わり」、環境による変化は「胎児期だけでなく生まれた後でも起こり得る」といわれました。
次いで、「発達障害」について、いま「発達障害」が増えており、その「生物学的要因」として、「先天的(遺伝要素)な理由」(「晩婚化」:高齢女性の卵子によるダウン症のリスク、高齢男性の自閉症のリスク)と、「後天的要因」(「生後の環境による遺伝子変化」=:劣悪な養育環境によって遺伝子が変化し脳障害を生ずる)を挙げられました。
こうしたご説明をもとに、「エピジェネティクス」に基づく発達障害の療育について次のように述べられました。「遺伝子のスイッチは悪い環境(例、「精神ストレス・母子分離」)で変わるけれども、よい環境で戻すこともできる」(「エピジェネティクス」の可逆性)。「親から受け継いだい病気のジェネティクス(遺伝子そのもの)はかわらない。しかし「エピジェネティクス」(遺伝子のスイッチ)は環境でよくすることができる」というのです。そして「遺伝子のスイッチを良くするもの」として、「薬」、「食べ物」、「正常遺伝子(実験的に)」のほか、当日の講演では「良い環境で育てること」を強調されました。そして結論的に、「エピジェネティクスをよくする環境」(「遺伝子のスイッチを良くする環境」=「発達をよくする『脳をONにする環境』」)とは、一人ひとり障害者が「興味が湧き共感できるモノ」を提供すること、「その子に合った良い環境」を用意することにあるとされました。
(2)以上の久保田先生のご講演は、参加された親御さまには初めての経験と思われ、当日のアンケートの回答によりますと、斬新な感動を与えられたように思われます。もちろんご家族様は、「現実はそう簡単ではない」と冷静に受け止めながら、それでもなお、「遺伝子のスイッチを良くする」ための「良い環境」について、さらに具体的な話しを聞きたいとの多くの要望がよせられました。そこに、「エピジェジェティクス」による発達障害(知的障害、自閉スペクトラム症、ADHD(注意欠如・多動性障害、愛着障害)の療育に期待しようとの前向きの強い意向が感じられました。
もとより、「エピジェネティクス」にどう向き合うかは、障害者本人とご家族さまの判断が尊重されるべき問題であり、ご家族さまの思いが尊重されなければなりません。一方、わたしども障害福祉サービス事業所としては、「エピジェネティクス」に基づく発達障害への療育について引き続き関心を持ち、必要な情報の提供を行っていきたいと思っています。とりわけ、「遺伝子のスイッチ」が適切に働くように利用者への個別的支援を、既存の発達障害への支配的な支援方法と対比しながら、追求していきたいと考えています。