第15回 子どもの脳の発達に関する エピジェネティクス研究 – 保育・教育・子育てへの示唆 -2023.2.25

2023年08月05日

 

遺伝子そのものではなく、DNAやそのまわりのいろいろな化学修飾によってその働きを制御する「エピジェネティクス」は日常生活において健康を考える上で有用な知識になっています。そういったことを題材に毒性研究者や医師や教育職および福祉など多様な職種の方々で開いた「健エピのつどい」の第15回目の公開版をお送りします。今回は、新しくと特別支援教室の専門員として活躍しておられる方を新メンバーとしてお迎えしました。そのきっかけとなった久保田顧問(元代表)による「子どもの脳の発達に関するエピジェネティクス研究- 保育・教育・子育てへの示唆」 をおとどけします。。

 

子どもの脳の発達に関する エピジェネティクス研究 – 保育・教育・子育てへの示唆

                         (久保田健夫)

(1)発達障害の現状

グラフの様に近年、発達障害児、成人の発達障碍者の急激な増加がみられ、その原因としては、①発達障害という診断名が医療で使用されるようになったことや学校・施設など社会体制整備、情報の普及に伴って数字として表れた見かけの増加と②社会的環境の影響や結婚年齢の上昇(受精時の精子と卵子の高齢化)によって生物学的原因で起こる真の増加があります。

(2)劣悪な養育環境による脳の遺伝子変化

  「後天的」理由(養育環境による遺伝子変化) 劣悪な養育環境によって遺伝子が変化し、脳障害を生じることが動物実験などから報告されています。

例えば幼少期に親から引き離すと脳の遺伝子のスイッチがオフなり、生涯行動が変わることが判明しました。「三つ子の魂、百まで」の科学的理解です。

 また精神ストレスだけでなく、胎児期や幼少期の低栄養、成人期の暴飲暴食、喫煙や受動喫煙なども遺伝子のスイッチを切り替えてしまうこともわかってきました。

 

 

 

 

 

 

 

 

(3)温かい環境の提供による遺伝子の修復

薬による改善(うつ病の治療薬(イミプラミン)など)、食べ物による改善(例えばローヤルゼリーの遺伝子のスイッチを切り替える作用(女王バチ))、正常遺伝子導入による改善、良い環境で育てることによる遺伝子を介しての脳機能の改善の実験結果も報告されています。

(4)遺伝子から見た幼少期環境の重要性

幼少期の劣悪環境でエピジェネティックに変化した遺伝子はその後の小児期〜成人期の病気(発達障害や精神疾患)の発症に関与し、さらには場合によってはその異常行動も伴って子孫にも伝わること、すなわち「虐待の連鎖」の科学的理解もなされるようになってきました。また、虐待を受けてもその後に良い環境を与えることで脳の遺伝子を戻せる可能性があることもわかってきました。このような意味からもエピジェネティクスの視点に基づく介入の重要性を保育教育養護の現場の方と共有できたらと考えています。

コメント1:大変感銘を受ける講演でした。「理論的にはASDやADHDなどの精神疾患も

根治可能」ということに大いに希望が持てる。こういうことを教育の現場ではほとんど知られていない。もっとこういう大事なことをこの研究会から発信していく必要があると思う。

コメント2:以前に講演会をみどり園で開催した時も親御さんから大きな反響があった。

障害者の親御さんにとってエピジェネティクスの概念は大きな希望なっているようだ。

コメント3:水俣病、カネミ油症の患者さんの診療に携わってきたが、その患者さんのお子さんにいろいろな症状がでてきている。精神疾患ついては日本ではあまり注目されてこなかったがエピジェネティックな観点からの解析の必要性をあらためて認識させてもらった。

質問:エピジェネティックな観点を取り入れた治療は青年期でも可能か?

回答:やはりエピジェネティックな面からも可塑性が大きな幼少期の方が効果は高いとは思うが、青年期、大人になってからでも十分改善の余地はあると思う。

                                以上      

 

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