第17回 リーキーガット (腸漏れ)

2023年08月05日

遺伝子そのものではなく、DNAやそのまわりのいろいろな化学修飾によってその働きを制御する「エピジェネティクス」は日常生活において健康を考える上で有用な知識になっています。そういったことを題材に毒性研究者や医師や教育職および福祉など多様な職種の方々で開いた「健エピのつどい」の第17回目の公開版をお送りします。今回は、堀谷からリーキーガット のお話をします。

 

〇リーキーガット(腸漏れ) とは  堀谷幸治

 

 (1)リーキーガット(腸漏れ)とは

 腸内は体の外部です。口と肛門で蓋をしているが外部の世界とつながっています。それを

腸壁バリアと呼ばれる仕組み(細胞がしっかりと接合+粘液層)で体内と物理的・免疫的にも異物、感染から防御しています。(図左) 

それが、腸内細菌叢の乱れ、食物アレルギー、薬物、精神的ストレスなど様々な原因でバリアが崩れていき(図中央)

ついには腸内の物質や細菌などが体内に漏れ出した状態をリーキーガット(腸漏れ)といい、それがいろいろな症状を引き起こした状態をリーキーガット症候群といいます(図右)。

図1 正常な腸からリーキーガットへの模式図(Kinashi,2021)

ただしこれは、今のところ正式に学会などで認められたものではなく、まだ仮説として提唱されている段階のようです。

 ・食事や飲む薬の中にリーキーガットを起こす成分(Aleman ,2023)

グルテン:小麦などに含まれるグルテンはグリアジンに成り、これが腸粘膜下組織のマクロファージと反応し、ゾヌリンというタンパク質を産生し腸壁のタイトジャンクション構造(固くしっかりと接合する構造)を緩めるように働くことでリーキーガットを引き起こします。この反応は、特にセリアック病と呼ばれる自己免疫疾患の原因となっています。程度は弱くとも健常者においてもこの反応は起きていると考えられます。

細菌毒素LPS(Lipopolysaccaride:大腸菌やサルモネラ菌などのグラム陰性菌の細胞壁を構成する成分):通常は均衡が保たれている腸内菌叢に抗生物質、抗炎症剤などから菌叢が乱れ、毒素LPSの産生から炎症誘発性サイトカインが出ることで腸の透過性を増加させると考えられます。

  

  (2)リーキーガットと疾患 (Jpn J Psychosom Med 62:451-457, 2022より)

腸内細菌叢の乱れから起きると考えられる疾患:

1.炎症性腸疾患 ・潰瘍性大腸炎・クローン病など

2.代謝疾患 ・肥満・2型糖尿病・慢性腎炎など

3.自己免疫疾患・1型糖尿病・関節リューマチ・アトピー性皮膚炎

 ・セリアック病など

腸内細菌叢の乱れからサイトカイン・代謝物が中枢神経の炎症や変性を誘発されると考えられる精神疾患:・うつ病・統合失調症・自閉スペクトラム症・パーキンソン病・アルツハイマー病など

 

図2:腸内細菌と腸内細菌関連疾患及び精神疾患との関連(Jpn J Psychosom Med 62:451-457, 2022)

(3)リーキーガットと農薬グリホサート

 世界でもっとも使われている除草剤ラウンドアップの原体グリホサートには様々な毒性の指摘があります。その毒性発現機構としてリーキーガットに関するものがあります。

 

 マウスのグリホサート製剤の長期曝露(妊娠から成⼈期)で腸の損傷、腸内菌叢変化、行動異常の誘発(Castilo, 2022)

グリホサート製剤(GBH-Rup)曝露は、粘液産⽣の増加と形質細胞 (CD138 陽性) の浸潤を引き起こし、貪⾷細胞の減少をもたらした。

・GBH RUp への⻑期暴露は、腸の構造変化も誘発。タイトジャンクションエフェクタータンパク質 (ZO-1 および ZO-2) の発現の変化とシンデカン-1 プロテオグリカンの分布の変化腸のバリアの確⽴にも重要な腸内微⽣物叢の組成の変化をもたらした。

. マウスでGBH-RUp の⻑期曝露が腸の形態学的および機能的変化をもたらし、神経発達障害の患者で観察されるものと同様の⾏動変化を示した(図4)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図3:GBH(グリホサート主成分除草剤)ばく露マウスの結腸構造変化と炎症促進

図4:GBH暴露マウスの神経発達障害者様の行動傾向

グリホサートの除草作用はアミノ酸合成経路の1つシキミ酸経路の阻害といわれています。これは、植物にはあって動物にはないのでその安全性を担保すると考えられていましたが、細菌にもシキミ酸経路は存在し、腸内細菌叢への影響はよくわかっていません。このことから、腸内細菌叢の変化→リーキーガット→いろいろな疾患というストーリーが提唱されているようです。これに対しては、

「グリホサートは多くの病気の原因」というセネフ博士の主張は科学的に正しいのか?(https://agrifact.jp/glyphosate-explanation-seneff-argument/

間違った3段論法

命題①:グリホサートは消化管内微生物に影響する可能性がある。

命題②:グルテン過敏症患者の消化管内細菌には変化がみられる。

結論:だからグリホサートは消化管内細菌を変化させることで、グルテン過敏症を起こす。

大腸炎等の消化管の病気は、動物性タンパク質、精製糖、でんぷん、脂肪の多い加工食品の摂取という欧米型食生活によって大幅に増加したのは事実です。食生活の変化が消化管内に存在する微生物を変化させ、胃腸病を引き起こす可能性は否定できませんが、グリホサートがこれらの病気の原因になるという説は単なる仮説。

 

 という反論が出ていますが、完全に否定するものではなく、可能性はあるが証拠不十分という内容になっているように思います。

 

質問:LPSがリーキーガットを起こす仕組みは?

回答:LPSは不健康な環境において炎症を起こすもとになるが、それが本当にリーキーガットを起こすか、どのように起こすかということはまだよくわかっていないようだ。

コメント:グルテンフリーの健康法についてはいろいろやられているようで、大谷選手も

パンはほとんど食べないといわれている。

コメント2:グリホサートは親のばく露が生殖細胞を通して子孫の世代に毒性が現れる経世代エピジェネティック遺伝についても動物実験で報告があり、これまでの安全性基準の見直しを求める声もあるが、農薬許認可側からはやはり証拠不十分なのでその必要はないと反論している。しかし、やはり科学的に検証する必要はあると思う。

                            以上 (2023.8.5)     

 

 

コメントを残す

承認させていただいたコメントのみを数日以内に掲載します。

CAPTCHA