第9回 「食と健康」 + 「三木成夫の世界」

2022年10月14日

遺伝子そのものではなく、DNAやそのまわりのいろいろな化学修飾によってその働きを制御する「エピジェネティクス」は日常生活において健康を考える上で有用な知識になっています。そういったことを題材に毒性研究者や医師や教育職および福祉など多様な職種の方々で開いた「健エピのつどい」の第9回目の公開版をお送りします。今回は、市民運動活動で活躍された新メンバーにも加わっていただきました。

食と健康

 薬剤師でパン屋さん、食育のコンサルティング活動などもされている湯河原町のA.Kさんが地元でされている「食と健康」講座のさわりを紹介していただきました。

 

1.江戸時代の食生活は理想的

  江戸の庶民の食事は、・米とぎ汁つけの野菜・米麹の甘酒・冷や飯と奈良漬、沢庵、塩昆布など体に良いものを中心としていて健康に大変良いものであった。これらは米国のメタボ対策の「マクガバンレポート」にも紹介されている。

米とぎ汁つけの野菜・米麹の甘酒:発酵して乳酸菌、とぎ汁に含まれる様々なビタミン、ミネラルは腸活になる。デトックス効果もあり。

冷や飯と漬物:冷や飯はレジスタントスターチが増えて血糖値が急激に上がるのを抑える効果がある。漬物をとることで食物繊維、ミネラル、ビタミンも補給。冷や飯の途中で漬物を挟むことで咀嚼が増えるなど食べ方も体に良い。 

 粗食であること、楽しみながらたべることも大事な要素です。

 

質問1:血糖値の急激に上昇を抑えるのが大事とは?その方法は?

答え:糖尿病の原因は血管の損傷だが、血糖値の上下変動が血管にダメージを与えるのであって、血糖値が高くてもゆっくり上がっていけば問題は少ない。一番よくないのは食べないこと。炭水化物の摂取は必要で食物繊維、レジスタントスターチなどを取ることなどでゆっくりと上げるのが大事。

コメント1:大変面白い。食の安全についての活動をしているが、こういった話はみな聞きたがっていると思う。

質問2:江戸時代の食に関する資料はどうやって入手しているのか?

答え:研究家の車浮世さんや 真弓医師、南雲先生などの書籍や講演会などから。

大変興味深いお話で、今回はさわりだけでしたが、また機会があればぜひお願いします。

 

〇三木成夫の世界

  今回の2題目は澁谷代表代行による、解剖学者で独特の生命史観を著した三木成夫の「胎児の世界」を中心としたお話でした。

三木成夫の略歴

・1925年 香川県生まれ

「ヒトのからだ―生物史的考察」・「海・呼吸・古代形象」など

      「発生と進化」三木成夫記念シンポジウム記録集成

 

1)ヒトには生命が誕生してから進化を遂げる38億年の「生命記憶」が存在する。

それは、いつでも回想可能な無意識の体得で原形質にしみこんでいる。

脳は左右で分業しており、左脳はロゴス、右脳はパトスを担当している。

脳の音感には、「民族の差」があり、日本人は自然の音を左脳の言語脳」で聞いている。「虫の声」「俳句」。日本人の脳と似ているのは「ポリネシア民族」である。

「五感は誤らない、誤るのは判断である」(ゲーテ)

2)生物はそれぞれ次の2種類の器官から成り立つ

「動物器官」:感覚―運動を司る。自分の体を養うことが出来ない動物たちが窮余の一策

として身に付けた。

「植物器官」栄養―生殖をつかさどる。生物本来の営みのたずさわるもので、植物の体に見られる。 

からだを輪切りにすると、二つの器官系の重心は「背」と「腹」に分極して位置している。

3)5憶年にわたる脊椎動物誌には、能の「序・破・急」の相当する大きな三段階が識別される。「序」は古生代の「魚類の時代」である。これは「無顎類」とも「円口類」とも名付けられている。一億年をかけて顎と胸腹の鰭を持った「魚類」に進化をとげた。

古生代の終わりに、あるものが水にも陸にも適応した「両生類」に変わる。これが「脊椎動物の上陸」で劇的な出来事である。

海から陸へ重力が6倍:生物は重力が進化させた(「生命記憶を探る旅」西原克成

「破」は中生代の「爬虫類の時代」であり、既に存在していた「古代緑地」はシダ植物から針葉樹の裸子植物に衣替えしていた。

「急」は、新生代の「哺乳類の時代」植物では裸子植物から被子植物へ、動物では卵生動物から胎生動物へ、と主役の交代が行われ、動物では排出管の分化した「子宮」の袋で胚が包まれることになる。

・細胞にはかって独立生物であったミトコンドリア・葉緑体・中心小体」などが含まれている。

・「羊水」は「古代海水」

・地球は「陸盛期」と「海盛期」を繰り返してきた。その際の環境悪化に対応した、生命形態として進化を流れを支える一つの位相である。

図17 鶏胚の窒素組成による「個体発生は系統発生繰り返す」ことの化学的証明。

 

以下の図で脊椎動物5億年の宗族(系統)発生と個体発生を示す。生物の体に内在する二重の時間系列を示します。

引用:胎児の世界 -人類の生命記憶-」中公新書(1983)

参考図書:「生命記憶を探る旅」西原克成(河出書房, 2016)

 

コメント1:「個体発生は系統発生を繰り返す」というだけでなく「38億年の歴史が

体の中にしみこんでいる」というのはまさに進化の中で環境から遺伝子の中に組み込ま

れたエピジェネティクスではないかと思います。

コメント2:養老孟の「唯脳論」に対して三木・西原先生は「唯臓論」で、腸が心を作っているというようなことを唱えている。発生が原腸動物から始まってその記憶が受け継がれているとすれば発生学的には的を射たことかもしれない。

質問1:主にパトスの右脳、ロゴスの左脳ということだが、ASDやADHDの発達障害の子は左脳の発達に問題があると考えられる。今施設にいるお子さんに音楽療法や図形を使った療法などをやっていて、なかなかよい効果があるようだ。右脳の刺激によって左脳も発達するといったエビデンスはありますか?

答え:米国ではASDの子がドラムをやらせていたらみるみる才能が開花して一流の音楽家になったり、日本でも空間図形など天才的だが情緒面で障害のあった子が自由に図形をやらせていたらクラス委員になるなどコミュニケーション能力もついてきた例を見てきた。

質問2:盲腸を切ってもよいのか?

答え:実は何か免疫的に重要な役割をしている可能性もある。知人で盲腸は切るなとい

う本を書いた人がいる。

コメント3:羊水が古代海水ということだが、今、母親の羊水から柔軟剤の匂いがしたとか化学物質の汚染といった問題も指摘されている。

 

2022.09.24.

 

 

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