第11回 代替医療 その3 ストレスと鍼治療
2021年06月27日
前回、お示ししたように気と血の通路である「経絡」は経脈、奇経八脈、十五絡脈など体中に張り巡らされており、その急所となる経穴は361ヵ所あり、これらはWHOで定められています。また、WHOが認定する鍼灸治療の適応症も神経痛、自律神経失調症、うつ病など神経疾患、関節炎、リウマチなど運動器系疾患、動脈硬化症、高血圧症など循環器系疾患、その他消化器系疾患、糖尿病などの代謝内分泌系疾患など多岐にわたっています (1)。
前回の鍼の鎮痛効果するいろいろな研究のほか、特にエピジェネティクスに関連する、ストレスをかけた時の鍼治療の効果について動物実験の結果(2)がありました。それによりますと
各10匹ずつのラットを
A. : 無処理対照群:5匹ずつ群飼いで自由に摂食、摂水させた群。
B. : ストレス負荷群:孤立環境、低温での水泳、押さえつけ、尻尾をクリップではさむ、閉じ込め、24時間照明、絶食、絶水などのストレスを1週間サイクルで4週間負荷をかけた群。
C.: B.と同様なストレス負荷をかけ毎日、鍼治療を実施した群。
D.: B.と同様なストレス負荷をかけ毎日、抗うつ薬を投与した群。
としたところ、
・精神的ストレスがかかり、うつ状態となったことを示す、甘味に対する嗜好の低下がストレス負荷だけの群(B)に対して鍼治療を施した群(C)、抗うつ薬を投与した群(D)が有意(統計的に意味のある)な回復を示したこと(図1)、
・ BDNF ( brain-derived neuro-trophic factor ) というエピジェネティクスと関連した神経栄養因子の量も同様にストレス負荷だけのB群より、C及びD群が有意に回復していることがわかりました(図2)。
ほかにもうつ状態の指標として、体重低下、動き回り行動の低下などでも同様の傾向が見られ、さらにBDNFの分泌を調整しているエピジェネティックな指標(BDNFを産生する脳細胞でのヒストンという遺伝子発現を調節する蛋白の状態:H3K9の位置に酢酸がついているものほど遺伝子発現を増やすことになる)が同様な傾向を示していることがわかりました。
ここで重要なことは、動物の実験結果であることより「治療を受けた」という心理的効果を無視できることと、精神的ストレスが循環器系疾患や糖尿病、がんなどの引き金にもなることから、間接的にも鍼治療には良い効果がえられる可能性があることだと思います。(抗うつ薬などの場合、副作用がありますが鍼治療ではそれが少ないと一般的に考えられます)
図1ストレス負荷をかけた時の甘味嗜好性の低下と鍼治療による回復(H. Jiang,2018より改変)
図2.ストレス負荷によるBDNF(神経栄養因子)の低下と鍼治療による回復効果 (H.Jiang,2018より改変)
参考文献
1.平馬直樹監修;東洋医学のすべてがわかる本(ナツメ社)(2018 第8刷)
2.H.Jiang1 et al, Frontiers in Psyciatry (2018)
2021.6.27