第7回 睡眠その4 夜行性と昼行性

2021年02月04日

先に生物には体内時計があって、ヒトなどの昼行性動物では昼間に覚醒ホルモン(オレキシン、ヒスタミン、ノルアドレナリン、セロトニンなど)が放出され、夜間にそれを抑えるメラトニンなどが放出されると記載しましたが、では夜行性動物はどうなっているのでしょうか?

 

いろいろ調べてみたのですが明確にそのスイッチの違いを説明されたものが見つかりませんでした。実はこの領域はまだ未解明の部分が多いようです(池田真行,2018)。

 分かっているのは、メラトニンの分泌はやはり夜間であり、光を浴びることにより抑制されること。

 オレキシン、コルチゾール、ヒスタミンなどの覚醒物質は逆に、夜間に放出されていること。すなわちメラトニンは覚醒物質の放出オンのスイッチになっているということです。

 

従って、メラトニンは睡眠物質というより、体内時計の起床時刻、あるいは就寝時刻の設定装置という事になると思います。体内時計の機構はこれまでに脳内の視床下部視交叉上核:SCNと呼ばれるところが、明暗を感知して、全体を統括する時計、いわばグリニッジ天文台の世界標準時刻を設定するところ(今は各国原子時計かもしれません)で、そこから各地の標準時刻が決められていくように体内のいろいろな臓器にもローカルな体内時計が存在していることがわかっています(川口ちひろ,2007)。

 

 この体内時計は、光刺激、運動やこれまで話題にしてきたメラトニンなどの体内シグナル物質を調整することでずらしたり長短を変えることが可能です(澄倉尋實,1993)。だから、体内時計をずらした夜行性人間や、昼行性ネズミをつくることはできそうですが、基本的にメラトニンなどのシグナルを就寝とする生物と起床とする生物がどこでどうなっているのでしょうか? 最近の研究では、ラットやマウスの夜行性動物ではメラトニンや副腎皮質ホルモン(コルチコステロン,コルチゾールなど)は上記SCNとは別の「食餌性概日振動体」が存在し、その支配を受けているという報告があります。しかし、ヒトでもそれが存在するかどうかはまだ明らかになっていません(山仲 勇二郎,2015)。

 また、通常飼育において昼行性を示す「ナイルラット」というネズミの1種は、ランニングフォイール(ハムスターなど遊ばせる回し車)をおいて遊ばせ活動量を上げた場合、夜行性に変化する個体が現れるという報告があります(Castillo-Ruiz et al, Neuroscience 2010)。このことは、神経ネットワークの大きな構造的変化を伴わずとも、昼夜行性はスイッチし得る(池田真行,2018)こと、すなわちエピジェネティックなことが起きているようです。

 

紫外線から身を守る機構を身に着けていれば、活動のエネルギーを得やすい昼行性生物が有利だと考えられます。哺乳類の場合も、もともとは昼行性だったはずですが、恐竜時代に生き延びるために夜行性になっていったという説もあります。そして恐竜などがいなくなってからは、また昼行性のものが多くなっていったというように何度も環境に合わせて夜行性、昼行性を行ったり来たりしていることが考えられます。まさにエピジェネティックなことがそこで起こっていると思われます。 

文献

1:池田真行 時計遺伝子転写リズムは、どのように生理活動リズムを形成するのだろうか?

ミニシンポジウム「概日リズムを司る時計遺伝子の普遍性と多様性 ‒2017 年ノーベル賞を記念して」(生物学コース理学談話会)(2018年1月26日)

2:川口ちひろ,礒島 康史,馬場 明道 動物個体を用いた概日リズム解析法 日薬理誌(Folia Pharmacol. Jpn.130,193~199(2007)

3: 澄倉尋實 ヒトのCircadian Rhythm位相変化に対する運動の影響 デサントスポーツ科学Vol.14 2-12(1993)

4:山仲 勇二郎 食事制限がヒトの生体リズムおよびエネルギー代謝調節に与える影響 デサントスポーツ科学Vol.36 50-60(2015)

                                      2021.2.3

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