第10回 ゲノムインプリンティング(GI)の異常とヒトの疾患

2021年04月27日

 前回のゲノムインプリンティング(GI)は、生物学的には大変興味のある現象ですが、これがヒトの疾患の原因となる例も知られています。有名なものには「ブラダー・ウィリー症候群(PWS)」と「アンジェルマン症候群(AS)」があります。

発見当初は、これらの疾患は関係のないものと考えられましたが、これらの疾患は同じ15番染色体の同じ部分が失われたことによって起きることが分かりました。それぞれの疾患には、症例を報告した医師の名前が残されています。

 

PWSの子供はミルクがよく飲めなくて体重が増えず、身体の動きや運動の発達が良くないという症状を示します。しかし、その後一変して、過食と肥満となり低身長が主徴となってきます。また中程度の知的障害があり、感情面でもさまざまな問題を持っています。一方、ASでは、脳・神経症状が顕著なことが症例です。身体の発達は大きく遅れ、言葉の発達も悪く、手足の震えが認められ、けいれんや睡眠障害も示します。このようにPWSとASとは、一見して全く別の疾患であるように思われてきました。

 

しかし、これらの疾患の原因はともに上に述べた15番染色体の同じ部位の欠失によることが分かりました。PWSでは父方由来の欠損であり、ASでは欠失が母親由来であることが分かってきました。つまり、欠損していない親のゲノムに異常があれば、それらは疾患として発症してしまうのです。これがGI病の最初の発見でした。さらにニコラス教授(ケース・ウェスタンリザーブ大学)らは、PWS患者の一部で、2本の第15番染色体が2本とも母親由来で、逆にAS患者の一部ではいずれも父親由来であるという不思議な現象を報告しています。これらの現象の原因については、まだよく説明されていないということです。

 

中尾光善教授(熊本大学)は、ケース・ウェスタンリザーブ大学に留学中に、PWSとAS患者を研究して第15番染色体にさらに微小な欠失を発見しました。この症例では、PWSでは父親由来の染色体があたかも母親由来の染色体のごとくGIが起きており、ASでは逆な現象が起きていることを発見しました。つまり第15番染色体にはGIを支配している部分があることが分かかりました。GIひとつとってもこのように複雑な機構が潜んでいるようです。             

この稿は中尾光善著「驚異のエピジェネティクス」羊土社(2014)を参照させていただきました。     2021.4.27

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