第1回  2021年12月18日 

2022年02月20日

遺伝子の化学修飾という専門的な理論であるエピジェネティクスが日常生活において健康を考える上で有用な知識になってきたことをうけ、生物学研究者や医師に教育職や心理職が加わった多様な職種の方をまじえた会合(健エピのつどい)を開いてきました。これまでその会合の記録は内輪の情報となっていたのですが、他の方々にも知っていただきたいこともがたくさん含まれているため、広く公開することにしました。

 

〇エピジェネティクスの基本(エピジェネティクスの散歩道もご覧ください)

 新しい方が加わったことをふまえ、澁谷 徹副代表によるエピジェネティクスの基本に関する講義が行われました。その内容は、エピジェネティクスとは遺伝子の働き関わるDNAやヒストンタンパク質の化学修飾を明らかにする学問分野であること、

〇 環境からエピジェネティクスが影響をうけて病気や障害の原因に

この「修飾」が環境の影響をうけて変化すること、その変化が病気や障害の原因になることなどが説明されました。例えば、胎児期や幼少期に劣悪な環境に曝されると、体内の遺伝子に異常が生じて、成人病や発達障害などの様々な病気が発症する可能性があることが説明されました。さらに親の代で生じた遺伝子の化学修飾変化が次の世代にも伝わり、病気の体質が遺伝するという新しい知見も紹介されました。特にその環境に暴露されていない世代においても健康に悪影響を与える「継世代エピジェネティック遺伝」に関しての説明がありました。

 今回の講義を受けて、参加者から以下のような活発な質問や意見が出ました。

 

(意見1)幼少期の劣悪な環境の例として第2時世界大戦中のオランダの飢餓があります。この時期に生まれた子どもは成人になった後、生活習慣病が多く発症した例があったと聞いております。

 

(意見2)飢餓のような低栄養だけでなく、逆に高栄養も次世代の健康に影響を及ぼすという研究もあったと思います。

 

(質問1)糖質や脂質のとり過ぎは健康に悪いといわれますが、タンパク質のとり過ぎはいかがでしょうか?

 

(回答1)タンパク質の取り過ぎは健康に悪いかどうかはよくわかっていないと思います。ただアレルギーの原因はタンパク質であり、アレルギー体質の子どもには特定のタンパク質の摂取は注意が必要です。余談ですが、アレルギーの発症に腸内細菌叢が関わっていることがわかってきました。よい腸内細菌を保持しているとアレルギーになりにくいという知見です。また胎児は経膣分娩で母親の腸内細菌叢を獲得するのですが、帝王切開だと腸内細菌叢を獲得できないという知見も出てきました。

 

今後も「エピジェネティクス」の考え方からみた私たちの健康についての知見をお知らせしていきたいと思います。

(註)DOHaD学説:Developmental Origin of Health and Disease 健康と疾患の原因が胎児期―幼少期にあるという学説

 

第2部 子どもの事例検討(最新子ども事情  もご覧ください)

ある小学校の男児の事例が紹介されました。衝動性がつよく他の友達と一緒に勉強が出来なかった子どもで、このつどいにこれまでも提示されてきた事例です。兄弟姉妹が4人で、父親が厳しく、父親に優しくしてもらえていないという家庭背景がありました。最初は手立てが見つからなかったが、様々な教職員の尽力と工夫で、次第におちつけるようになり最近はクラスの授業を受けられることきもでてきたとのことが報告されました。

 

(意見1)その日の本人の良いところをご家庭に伝えていることはとても良いと思う。地道にそれを続け、父親が本人の方を向いてもらえることをゆっくりと促していくことが大切ではないか。

 

 

(質問1)暴れたことに対して自己嫌悪から自己肯定感の低下をきたす可能性はないのか?また授業中暴れてしまった時に、クールダウンする場は学校にないのか。

 

(回答1)自己肯定感が低くなる可能性は考えている。クールダウンできる場は作っているがなかなか行ってくれない。

 この子を含め同様な問題については今後も話し合っていきたいと思います。

 

(今後の予定)

この後も(教養講座)と(事例検討)の2部構成で、月に1回集いを開催していきます。

次回3月の教養講座は、養護教諭をしている参加者からの希望で、事務局代表の堀谷幸治が「発達障害に関わる脳内分子であるドーパミンとオキシトシン」をテーマにしたセミナーを予定しています。

 このコラムをご覧になって、エピジェネティクスと教育や医療、福祉現場での問題にご興味を持たれた方、聞いてみたいこと、ご意見等ございましたら是非こちらのコメント欄にお願いいたします。

 

 

 

 

(担当)堀谷、澁谷、久保田

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