第2回「クマムシの観察 その2」

2020年10月17日

 

 前回お話しましたように、電子レンジや放射線にも耐える事で知られているクマムシは、ごく身近な落ち葉や苔の中で見つかります。一番の特徴は、乾燥などの環境の悪化「乾眠(樽(タン)ともいいます)」という状態になることです。前回もお見せした、この映像は実は、元の状態がわかりやすいようにかなり平常に戻りつつあるところを撮ったものです。本当の乾眠は、右の写真のように固まっていて、もうクマムシであることも分かりにくくなっている状態のことを言います。

 

 それではクマムシは一体どのようにこの乾眠の状態になるのでしょうか? 名前の通り、乾燥していくことでこの乾眠が起こることは間違いないのですが、乾燥状態ではない私の飼育中でも乾眠状態になっているものを見つけることから、私は栄養その他乾燥以外にも誘発する要因があると考えています。すなわち、外部環境により体の構造と機能を変えてしまうエピジェネティクスが関わっていると考えられます。

 ところで、前回採取するときに、上澄みの水を別の容器にとっておいた方が良いと書きました。その理由は、出来るだけ自然の状態を観察したいと思い、私の飼育方法では丸い小型のプラスチック容器の中で見つけたクマムシをそのままにして、ただ干からびないように1-2週間に1回、水を加えてやるようにしています。その時に加える水としてとっておいた上澄みの水を用いるからです。容器の水は大体1-2ml程度なので、1-2週間に1-2滴たらしてやるだけで十分です。

 取り出したクマムシをどのくらいの土粒や草片等と一緒にするかが結構気を遣うところです。ゴミが多いとそれだけ見つけるのが難しくなり、前にいたはずのものを見つけるのに30分以上かかったりもしますし、かといってあまりゴミが少ないとその中にいるワムシや線虫といった餌となる生き物や微生物も少なくなり、クマムシが生きていくのに不向きとなります。

 そうやって、とにかく同じクマムシを継続的に観察できるように、できるだけ1個体、1容器にしながら、仕事もあり、毎日の観察は到底無理でしたので「週末観察」で観察を続けました。そのうち、クマムシのいろいろなライフステージに出くわすことになりました。

 まずは脱皮。クマムシは大体一生のうち7回ぐらいは脱皮をして、また、3齢以上では産卵を伴う事になります(参考文献)。このような脱ぎ捨てた後の殻にいくつかの卵があり

 

 その卵が孵化している場面にも出くわしました。

 

 言い忘れましたが、クマムシの仲間の多くは「単為生殖」という子作り方法をとります。すなわち、基本的に雌だけで、自分とほぼ同じ遺伝子を持った「娘」を産んでいくのです。ただし時々(おそらく何らかの環境変化があった場合)、突如「雄」が現れることがあることを鈴木らが報告しています(参考文献)。
しかし今までのところ、この稀な「雄」が雌との「交尾」(さらに交尾した雌による産卵)をすることは確認されていません。ではなぜこのような雄はあらわれるのか?あるいは「交尾」のような現場は存在するのだがまだみつけられていないだけなのか?クマムシは本当に分からないことだらけです。それでも確かなことは、これらの脱皮や産卵は、成長・生殖(子孫を残していく活動)に環境がさまざまな影響を与える「エピジェネティクス」のひとつなのかもしれません。

 (参考文献)「クマムシ?!小さな怪物」鈴木 忠著(岩波科学ライブラリー)

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