第3回「クマムシの観察 その3」
2020年10月26日
前回クマムシの脱皮、産卵といったライフステージについてお話ししましたが、クマムシの脱皮にはほかであまり見られない特徴があります。それがSimplexという状態です。どちらかというとSimplexの前のまるで口に筒をくわえているような口管を吐き出すところが本当に奇妙なところです。
これは脱皮を始めるのにそれまで使っていた口管を体の外に出すという事らしいのですが、出し終わった後のクマムシは口がなくなったようにSimpleになっていて、はじめはクマムシの別種だと思われたことからSimplex と名付けられたようです。
他の節足動物でも先端の消化器官などを脱皮の時に脱ぎ捨てるものがあるとのことですが、このような生態を示すものを私は知りませんでした。吐き出した後に新しく形成される新しい口管はどのように形成されていくのか?脱皮という事自体、実は「いきもの」にとって大変な作業らしく、大きなエネルギーを使い、また、敵に狙われるリスクを負うことになります。クマムシはこれといった敵はいないように思いますが、前回お見せしたように脱皮は特に一大事業ということになります。脱皮には苦労するらしく、していて徐々に古い殻を数時間くらいかけて脱いでいきます。
脱皮という現象は昆虫などの節足動物ではよく調べられていてエクダイソン、幼若ホルモンといったホルモンがそのイベントを取り仕切っているのですが、クマムシの場合には、何が引き金になって起きているのかまだはっきりとしたことはわかっていないようです。多くの脱皮は体内のホルモンレベルによって構造変化を調節していることから、やはり「エピジェネティクス」が関与しているものと思われます。
最後に、ある時、これまで見てきたクマムシとは全く異なるものを見つけました。その姿はまるで、脱皮した皮を何層も身にまとっているようで、口の部分は白っぽくsimplexそのものなのです。それも2015年と
2019年
の2回にわたって見つけたのです。
私は脱皮が不完全のままになる変異体ではないかと思い、前回の参考文献の著者鈴木忠先生(慶応大学医学部準教授)に観て頂いたところ「なんだこれは?」と声を発せられて、非常に驚かれていました。お忙しい中、標本まで作って頂いてかなり珍しい種類のクマムシであることがわかりました(右図)。皇居の土中でも、似た種類のものが報告されているらしいのです。
もしかしたら、新種かもと期待してしまいましたが、新種としての同定には最低4-5匹の個体が必要とのことです。4年に1匹で、これまでの2回では繁殖出来ずにいますのでまだ数年はかかりそうですが、「趣味の」My研究ですので焦らずに「普通の」クマムシを観察しながら、コツコツとやっていきたいと思っています。
(クマムシ編終り 次回からは睡眠の話)