My研究のススメ 番外編 その5 ビタミンDとメラトニン

2021年08月27日

 

感染リスクを下げる栄養素の摂取や生活習慣とはどんなものになるでしょうか? 一般的にやはり、免疫力を高めるには、タンパク質、炭水化物、ビタミン、ミネラルなどバランスよく摂取し、十分な睡眠をとることだと思います。 

 新型コロナ感染症に関連して、特に決め手となるものはないことを前置きしたうえでいくつか論文が出されているものとしてビタミンDとメラトニンをご紹介したいと思います。

 

・ビタミンD

 ビタミンDは食物としては主に魚類、肉類、乳製品などやサプリメントからも摂取できますが、通常は日光からの紫外線(UVB)により体内で生合成されることで十分補給できます。

 ビタミンD欠乏症は、感染症への感受性の増加と関連しており、ビタミンD欠乏症の患者は、新型コロナ感染症でも重症化リスクが高くなるという報告(Kun Ye,2020)があります。

表1:新型コロナ感染症患者の血清中25(OH)D(活性型ビタ ミンD)濃度​

 
 

健康者

(n = 80)

新型コロナ患者全体

 (n = 62)

軽中症度患者

(n = 50)

重症度患者

 (n = 10)

25(OH)D (nmol/L)

71.8 [57.6–83.7]

55.6 [41.9–66.1]a

56.6 [44.6–66.4]

38.2 [33.2–50.5]b

a: 健康者と比べてp<0.05 で統計的に有意な差  

b: 軽中症度患者と比べてp<0.05 で統計的に有意な差

(Kun Ye,2020より抜粋)

これは、サンプル数も少なく、また有効性に否定的な論文もいくつかありますが,ほかの呼吸器系感染症と同じく、ビタミンD不足は感染や重症化リスクを高めることになるので、血清中の適正レベル (75–125 nmol/L).に保つことは重要なことだといえます(NurshadAli,2020)。

 このようなビタミンD レベルを保つには食品でとるよりも日光を浴びて皮膚で合成される方が効率が良いので、皮膚炎などアレルギー的な問題などなければ,日本人では夏は顔や手に木陰で30分,冬は1時間程度の日光浴が目安となります(津川,2018 )。また、サプリメント摂取では、腎疾患、カルシウム製剤の服用されている方の高カルシウム血症に注意が必要です(桒原,2020) 。

 最近、ワクチン接種を拒否し、新型コロナに感染して、サプリメントでビタミンDを大量に取られていた方が亡くなるということがニュースになりましたが、ビタミンD は適正量以上にとってもまったく意味はないことは申し添えておきます。

・メラトニン

 第4-5回にも取り上げましたが、メラトニンは睡眠にかかわる生体ホルモンであり、日中、強い光を浴びるとメラトニンの分泌は減少し、夜、暗くなってくると分泌量が増えます。また朝日を浴びて規則正しく生活することで、メラトニンの分泌する時間や量が調整され、人の持つ体内時計の機能、生体リズムが調整されます。メラトニンはさらに、第5回で触れたように免疫力とも深くかかわっており、自然死滅細胞、TおよびBリンパ球、顆粒球、および単球の増殖と成熟の改善を通じて免疫応答を直接増強しますが、一方で炎症を誘発する様々な因子の活性化を抑制し、肺保護因子である核因子赤芽球2関連因子2(NRF2)の増強作用などから、新型コロナ感染症で重症化の原因、「サイトカインストーム」と呼ばれる過剰な免疫反応を抑える働きがあると考えられています(Kristina,2021)。

メラトニンのCovid-19 の重症化抑制作用についてはまだ臨床試験が始まったばかりですが、米国などではサプリメントとしても入手でき、安全性についてのデータはあるので、期待を持たれているところです。 ただし、これもまだ十分に検証されたものではないので、取り寄せたりして摂取するよりも、朝日を十分浴びて、夜はできるだけ暗くして十分な睡眠をとることを心掛けることが大切だと考えます。

最後に、自宅待機の感染者はどうしても紫外線を浴びることが少なくなるように思います。ビタミンD,メラトニンの要素を考慮すると、可能ならば窓などから朝日を十分に浴びることを心掛けることが、感染症の進行を抑える効果があるのではないかと思います。                                              

                                                                                                                 2021.8.27.

My研究のススメ 番外編 その5 ビタミンDとメラトニン」 に2件のコメント

  1. 読者T より:

    ワクチン接種がいち早く行われた現在のイスラエルの状況で
    「3度目接種者の増加数と感染者の増加数は綺麗に重なっている」という情報を目にしました。
    メラトニンのCovid-19 の重症化抑制作用については、まだ臨床試験中ということですが、
    今回のワクチンも同様に治験中のものと聞いています。
    そちらに関しては、先生はどのように、お考えでしょうか。
    この記事のように生活習慣などで予防したり、自己免疫を高め感染しない体を
    作っていくことが本来、大切ではないかと思います。
    今後も予防に関する有益な情報を期待しております。

    • 堀谷 幸治 より:

      コメントありがとうございます。

       ワクチンの目的は感染を防ぐことよりも重症化を抑えることであるとすると感染は増えても本来の目的は達せられていることになります。おっしゃるように治験中のワクチンかも知れませんが、人類のこれまでのワクチンによる様々な感染症への「勝利体験」がその後押しをしているのかもしれません。
       しかしワクチン接種による犠牲を防ぐために関連性の有無を含め常に並行して最大限の研究をしていく必要があると思います。
       
       ご指摘の通り、感染症全般に対する対策研究は多方面からのアプローチが必須です。
      新型コロナに限らず感染症の重症化には「免疫の暴走」をとめるものが必要ですので、メラトニンのように、体内で生産されるものでその作用の可能性のあるものの研究には今後とも注目していきたいと思います。

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