第4回 エピジェネティクスとは

2020年12月03日

 これから、「エピジェネティクスの散歩道」は本当の散歩道に入り、「エピジェネティクス(“Epigenetics”:以下EG)」に関したさまざまな話題を、読者の皆様に出来るだけやさしく解説してゆきたいと思います。また、取り上げてほしいテーマなどがございましたら、このHPの「質問箱」まで、ご遠慮なくお伝えください。出来るだけ丁寧に対応させていただきたいと思います。

エピジェネティクス(EG)という言葉を最初に用いたのは、エディンバラ大学の
C.H.Waddington(1942)でした。彼は動物の遺伝学と発生学の両方の研究者で、その両者を結びつけるために、EGという生物学において全く新しい概念を導入し、「生物の発生は多くの遺伝子の発現が統合された結果である」と考えました。この時は、まだ遺伝子の実体はまだ知られていませんでした。彼は動物が、受精卵から細胞分裂と細胞分化を繰り返しながら完全な個体へと発生する現象を、
”Epigenetic Landscape”(EG的風景)として描きました。これは、山ひだに沿ってボールが山頂から転がり落ちてゆくという図(図左)でした。さらに、おのおのの遺伝子と思われる杭が綱で結ばれ、その張り方が杭ごとに異なって、山ひだが作られている図も示しました。ちなみにノーベル賞を受賞された山中伸弥先生のiPS細胞は、一番下まで落ち分化しきった細胞に、4つの遺伝子を導入して、再び頂上にまで引き上げたことになります(図右)。

 その後、研究者たちによって、EGはさまざまに定義されてきました。少し難しいのですが、現在は、「遺伝子の変異を伴わず、生体内あるいは外部環境の変化によって、DNAのメチル化およびそれを取り巻いてクロマチンを作っているヒストンのさまざまな化学修飾、さらにさまざまな小非コードRNAによって、遺伝子の発現が高度に調節されている現象」という定義が一般的です。

生物は多細胞生物に進化した際に、遺伝子の構造はそのままでも、さまざまな環境の変化に対応して、遺伝子の働きを高度に調節できる仕組みを獲得しました。つまり、遺伝子の働きは、遺伝子の配列によって決まっているだけではなく、それを取り巻く種々の「環境」に柔軟に対応できるようになっています。これがEGであり、EGによって一細胞の受精卵から、多様に分化した細胞・組織・器官からなる個体を生成することが出来るのです。 

2020.12.2

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