エピジェネティクスの散歩道〜第2回 はじめに その2〜

2020年10月16日

遺伝子のオン・オフ

 その後、タンパク質となるための情報を持たない遺伝子が数多く発見され、これらは後で述べる遺伝子の発現調節に関係することが分かりました。これらを非コードRNA(リボ核酸)遺伝子といい、さまざまな種類のものが発見されつつあります。染色体というのは、細胞分裂のある時期だけに、核に見られる構造です。ヒトでは46本あり、この数は生物によって決まっています。また、それぞれの生物の持っているDNA全体をゲノムと言います。ちなみに今世界を席巻している新型コロナウィルスの遺伝子はRNAで、ヒト細胞に侵入後、DNAに変換され、ヒトのゲノムに挿入される可能性もあります。

 前にも書きましたが、ヒトの全ゲノムを解読すれば、ヒトの遺伝現象は分かるだろうという考えから始まった、「ヒトゲノム解読研究」は世界中の研究者を挙げて、莫大な研究費を使って、2003年にやっと終了しました。しかし、分かったことは、ヒトのゲノム配列を解読しても、ヒトの遺伝現象については、まだまだ不明な点が多く、「遺伝子のオン・オフ」すなわち、「エピジェネティクス」を合わせて考えなければ、ヒトの遺伝の実体は分からないということでした。

 遺伝子は生物が利用するタンパク質を作るためにあります。遺伝子の塩基配列による情報は、いったんメッセンジャーRNA(伝令リボ核酸・m-RNA)に写し取られます。この際、DNAとRNAの塩基配列はその構造から、お互いに対合(ペアリング)する塩基が決まっています(ただし、アデニンはチミンではなくウラシルに変化します。)この段階を「転写」といいます。タンパク質は、m-RNAの情報をもとに、リボソームというタンパク質工場で、長いアミノ酸がつながったものとして合成されます。この段階を「翻訳」といいます。3つの塩基の並び方によって、1つのアミノ酸が決められます。これを「遺伝暗号」と言います。それぞれのアミノ酸は、別の種類のRNAによって運ばれて来て、長い鎖のタンパク質へと合成されてゆきます。以上の段階を、まとめて「セントラルドグマ(中央教義)」といいます。これは、遺伝学の最高の教義と考えられてきましたが、今では、「セントラルドグマ」だけでは、遺伝現象を考えられなくなってきたのです。

エピジェネティクスの散歩道〜第2回 はじめに その2〜」 に2件のコメント

  1. 原 巧 より:

    遺伝子やタンパク質のことをよく知っている人には、解りやすい文章なのですが、一般の方々には出てくる用語の多くがあまり馴染みのない言葉ですので、図(というよりはイラスト?)がないと読んでいてしんどいのではないかと思いました。

    • 澁谷 徹 より:

      コメント有難うございました。たしかに図(イラスト)がないと理解しずらいかと思います。はじめにはまだ2回続きますので、
      図を添えることにしたいと思っております。 (T.S)

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